
中国の家具・建材工場と取引を始める際、日本企業が最も時間をかけるのは単価交渉になりがちである。しかし実際に損失が大きくなるのは、数%の価格差より仕様変更、納期遅延、大量不良、無断再委託、金型・図面の流用といった問題だ。特に店舗やホテル案件は開業日が固定されるため、契約条件を『問題が起きた後の法的文書』ではなく『問題を起こさないための製造指示』として作る必要がある。
第一に固定するのは仕様である。図面番号、改訂番号、材料表、色見本、金物型番、包装仕様を契約書または発注書の添付資料として明示する。『同等品可』と書けば工場側に代替権を与えることになるため、日本の法規や意匠に関係する材料は変更前の書面承認を条件にする。メールやWeChatで変更を指示した場合も、最終承認図へ反映して版管理する。
第二は再委託である。中国の家具産業では木工、塗装、金属、石材、ガラスなどを専門工場へ分業すること自体は一般的であり、再委託を全面禁止すれば現実に合わない場合がある。重要なのは主要工程をどこで行うかを開示させ、承認した工場以外へ重要工程を移す場合に事前承認を求めることだ。サンプルを作った工場と量産工場が違うという事故を防ぎやすくなる。
第三は検品と不良処理である。検品を行う権利だけでなく、どの段階で検品するか、合格基準、再検査、再製作、費用負担を決める。出荷前検品で重大不良が見つかった場合に出荷を停止できる条件を明確にし、残金支払いを検品合格と連動させる方法もある。品質基準は『日本品質』のような抽象語ではなく、図面公差や承認サンプルで定義する。
第四は支払である。契約相手、インボイス発行者、送金先銀行口座の名義を確認する。取引途中で『財務上の理由』などとして個人口座や別会社口座への送金を要求された場合は、そのまま応じず契約関係を確認する。前金比率と残金支払時期は、金型製作、材料購入、検品など製造工程と結び付けて設計したい。
第五は図面、金型、ブランド等の知的財産である。日本側が提供した図面や金型を他社向け生産へ使用しないこと、契約終了時の金型返却・廃棄、秘密保持を明記する。展示会で自社OEM商品を無断展示されることを防ぐ条件も必要に応じて設定する。
さらにRCEPを利用する案件では、原産地証明に必要な情報提供への協力も契約段階で確認したい。日本への輸入者自己申告では、輸入者自身が原産性を説明できる情報を持つ必要があるからだ。中国調達のリスク管理は『信用できる工場を探す』だけでは完成しない。仕様、製造場所、検品、支払、知財、原産地情報を文書化し、担当者が変わっても同じ条件で取引できる仕組みにすることが、継続的な中国建材ビジネスの基盤となる。



